haizaiの日記

滅びる過程を書いている

ベランダ遊泳

僕はベランダに出た。

夕日が今日の終わりを告げている。

また僕は疲労感の風によって僕は思考の渦を作るのだ。

しかしその渦は新しい渦に飲み込まれた。

遠く離れた住宅の陰に人の姿が見える。

遠すぎて性別は分からないが、子供であることは明らかだった。

あの頃に戻れたらなどというくだらない考えが浮かんでは消え、

消えては浮かんでくる。

僕は本当にあの頃に戻りたいのか?

自問しても僕は決して答えを返さない。

答えを返さないから、質問もしなくなった。

遠くのアスファルトを走るトラックをぼんやり眺めていると、わずかに僕は違和感を感じ始めた。

違和感を感じたといえど、違和感と平常の閾があるわけではないので、

実際のところ僕はずっと前から違和感を感じていたのであるが。

あからさまにトラックはあの子供に向かって猛加速している。

そして子供は無力ながらに轢かれた。

僕は驚いたが、その感情には悲しみや憂いは含まれていなかった。

人の死と言えど、他人の死。

僕には関係ないどころか、その死は一種の娯楽になってしまうのだ。

にやけそうになるのをこらえ、神妙な顔を作る。

誰も見ていないと知っていながらも僕はそうするのだ。

それはきっと自分が見ているからなのだろう。

自己欺瞞に似たその社会的行為は条件反射なのだ。

そうだ、反射なのだ。

化学反応や、機構的な運動のように、

人間のすべての行動は何かに対する反応なのかもしれない。

結局世界は唯物的で、無意味なのかもしれない・・・

僕はふとベランダから空を見る。

夕日に照らされた空はなんて綺麗なのだろう。

ああ、僕は生きていた良かった。

生きていた良かったよ!母さん!

ああ、僕はあの少年に戻らなくてよかったんだ!

僕は生きているんだ!この世界に!